2020/05/02 19:24



琵琶湖の「異変」がもたらした「草の根ムーブメント」

およそ40年前、琵琶湖で赤潮が発生するという「異変」が起きたことをきっかけに、せっけん運動をはじめとする県民を中心とした「草の根ムーブメント」が巻き起こりました。滋賀県が「ボランティア先進県」と言われる背景には、こうした「草の根運動」の存在があるのです。

そして約25年前、私は、学生時代に琵琶湖とご縁に恵まれ、卒業研究で琵琶湖の環境保全に取り組むNPOの活動に参加しました。そこで出会った、せっけん運動時代から草の根運動家として活躍しておられる方々の、実にイキイキした魂・キラキラした瞳・「琵琶湖愛」にあふれた言動に触れ、私自身も琵琶湖や琵琶湖好きな人たちのことが大好きになり、滋賀県の会社に就職して琵琶湖の近くに住み着きました。

その後も、いろいろな形で琵琶湖の環境保全活動に関わり続け、いろいろ思うところがあって、6年前に琵琶湖水源の森が広がる姉川源流の山里へ移住しました。琵琶湖との物理的距離は遠のきましたが、水源の森を守り活かす事業の立ち上げに関わるなど、山里での日々の暮らしから琵琶湖とのつながりを感じ、むしろ琵琶湖との精神的距離は近く・強くなっているように思います。


新たな「異変」 40年前との違い

ところがそのような中、近年、琵琶湖に次々と新しい「異変」が起きていることを知りました。

アユの激減、赤野井湾のハスの消滅、南湖の水草減少、外来魚の減少、湖底への酸素供給不足……

これらの「異変」がかつての赤潮事件と違うのは、現象と原因との因果関係があまりはっきりしない、ということ。40年前の赤潮発生は、人が流す排水に含まれる栄養分が原因でプランクトンを異常繁殖させた、という因果関係がはっきりしていたため、「琵琶湖のために、リンを含む合成洗剤を使うのをやめてせっけんを使おう!」というシンプルで分かりやすい運動が、多くの人々を動かしました。

しかし、今琵琶湖で起きている「異変」は、おそらく複数の原因が複雑に絡み合っていて、「こうすれば改善・解消する」という分かりやすい対策がないのです。

もうひとつ、40年前と今では決定的に違うことがあります。当時は高度成長期で、経済的にも時間的にも余裕のある元気な専業主婦や定年退職者がたくさんおられ、これらの方々が草の根ムーブメントの中核を担っていました。しかし、今はほとんどの家庭が共働きで余裕がなく、年金開始年齢も高くなって、仕事をリタイアする頃には地域活動デビューする余力もなく後期高齢者に…プレイヤー不足は、明らかです。


「草の根ムーブメント」をもう一度! ~琵琶湖愛の総量を増やす~

こうした条件の違いを乗り越えて、今、ふたたび琵琶湖の「異変」に立ち向かう県民主体のムーブメントを起こすには、どうすればいいか? 今、私たちにできることは? 仲間や同志と何度も語り合い、考え抜いた結果、たどり着いた結論は…

「異変の解消」を目標に据えるのではなく、今の時代にあった方法で、人びとの「琵琶湖愛の総量を増やす」ことを目的に活動をデザインすること。

具体的な数値目標を掲げた「行動」に取り組まなくても構わない。一人でも多くの人が、さまざまな場面で、より深く、より頻繁に、琵琶湖を感じ、琵琶湖を思い、琵琶湖に感謝する。そうした琵琶湖への関心の輪が人から人へと伝わっていくことで、みんなの日々の何気ない言動が、少しずつ琵琶湖へのいたわり・思いやりに満ちたものになっていく。そして、その積み重ねが、やがて新たな草の根ムーブメントとなり、結果として、琵琶湖はふたたび「異変」を脱して「平穏」を取り戻していく。

「マザーレイクにありがとう実行委員会」という名前には、そういう願いが込められているのです。


その「ありがとう」を、びわ湖にも。

私たちがプロデュースする一つ一つの「マザーレイクギフト」にも、それを買うこと・贈ること・受け取ることを通じて琵琶湖への思いが少しずつ深まるよう、さまざまな知恵や技や工夫が凝らされています。

たとえば今年のマザーレイクギフト「Promise for Lake Biwa ~しるし~」は、琵琶パールのネックレス。
琵琶湖が育んだ、2つと同じ形のない、美しい宝石…というだけではありません。

淡水真珠の母貝である「イケチョウガイ」は、成貝1匹につき1日で約200Lもの琵琶湖の水を浄化すると言われています。琵琶湖の真珠養殖では、稚貝を成貝まで育て上げるのに3年、貝の中で真珠ができあがるまでさらに3年の歳月がかかっているそうです。これだけ長い間、毎日毎日琵琶湖の水を浄化し続けてくれたイケチョウガイの命の結晶が、今、皆さんが手にすることのできる一粒の真珠なのです。

…そう考えると、琵琶湖やイケチョウガイや真珠に、「ありがとう」を感じませんか?

その「ありがとう」の思いを、皆さんから身近な人や大切な人へ、ぜひ伝えていただきたいのです。そうして、いつしか「母の日、父の日、びわ湖の日には、《びわ湖や水源の森を守るにつながるマザーレイクギフト》を贈るのが、滋賀県では当たり前」…そんな新たなローカル文化を創造したい!

それが、私たちがめざすゴールなのです。

(藤田知丈)